2023.08.29
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「勝訴」と「敗訴」

投稿者:池内優太
勝訴


弁護士をしていると言うと、飲み会の席などで

「どのくらいの割合で勝訴するの?」

とか

「敗訴すると依頼者に怒られたりするの?」

といった質問を受けることがあります。

この質問に真面目に答えるのはとても難しいです。

なぜなら「なにをもって勝訴(敗訴)とするか」から説明しなければいけないためです。

《交通事故の被害者からの依頼で、1000万円の支払を求める損害賠償請求訴訟を起こした場合》を例に説明します。

この裁判で、双方の弁護士が頑張って主張立証を行い、判決が出ました。

「主文。被告は、原告に対し、金500万円(中略)を支払え。」

さて、これは原告にとって勝訴判決でしょうか。それとも敗訴判決でしょうか。

半分の500万円は確保できたので勝訴?半額になっているので敗訴?

実は、これだけでは分かりません。

「本気で確保したい金額」というのが分からないからです。

どういうことかと言いますと、裁判には、【請求した額以上の支払を命じる判決は出ない】というルールがあります。

そのため、提訴時には、理論上認められうる最大限の金額を請求する訴状を書いて提出することが一般的です。

そして、その中には、多くの場合次の3つの金額が混在しています。

 

①間違いなく認められるもの

②証拠上微妙ではあるが、認められても良いはずだと思われるもの

③証拠上認められない可能性が高いけど、念のため載せたもの

 

そのうち、裁判で「本気で確保したい金額」というのは ①と②の合計額を意味します(あくまで法律家の感覚での話です)。

そして、 ①は、証拠から当然に認められる金額を想定しているため、裁判で実質的に争いになるのは②の部分です。

ここを取れたかどうかこそが、法律家の感覚における勝訴と敗訴の分岐点です。

上記の例(1000万円を請求、500万円認容)で、仮に、 ①が500万円、②と③が各250万円なのであれば、500万円認容という判決はほぼ敗訴といえます。証拠上確実に認められるであろう部分しか認められていないからです。

他方、仮に ①は150万円程度、②が350万円、③が500万円ということになれば、これはもう完全勝訴と言って良いでしょう。

どっちに転ぶかわからないものがこちらに転んだわけです。これを勝訴と言わずしてなんと言うのか。

 

…などという話を飲み会の席で開陳しようものならビールの泡は消え、食べ物は冷め、場の空気はもっと冷めます。

ですので、冒頭のような質問に対する模範解答は、多分これです。

「俺、負けないんで。」

盛り上がっていただくもよし、突っ込んでいただくもよし。

勝訴と敗訴の分岐点などという話を真面目にするのは、法律相談の時だけでいいのです。

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