2025.03.17
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高田馬場の配信者女性殺害事件に思う

投稿者:池内優太
新聞

あまりやらないのですが、今回、時事ニュースについて思うことがあったのでブログにします(以下、「加害者」は殺人を犯した男性を、「被害者」は殺された女性配信者を指すこととします。)。

ライバーが配信中に刺殺されるという凄惨な事件がありました。

背景事情として、金銭トラブルがあったことが報道されています。

その中に、加害者が被害者に金銭返還請求訴訟を起こし、認容判決を受けていたらしいとの報道も見られました。

これが事実であれば、この事件は、強制執行制度の不備が招いた…という側面がなくもない気がしています。


弁護士から見ても、この国の強制執行制度ってすごく使いにくいと思います(他国の制度をあまり知りませんが。)。

なぜかというと、相手の財産とか収入源がどこなのかを、権利者側がその費用と手間をもって探さなければいけないんですね。

しかも、例えば預金口座を見つけても、残高が少なければ回収しきれないわけです。

これではせっかく訴訟で勝っても費用倒れになってしまうので、そのリスクとリターンを天秤にかけた結果、裁判で解決するという選択を諦めること(を助言すること)もよくあります。

そして、敗訴した側が、進んで支払をしなかったとしても(敗訴判決を無視したとしても)、それ自体にペナルティは科せられません。

乱暴な言い方をすれば、法律が「逃げ得」を許す形になっているのです。


さて、事件に話を戻しますと、前記の訴訟に関する報道が事実なら、加害者は、貸したお金を返してほしいと裁判を起こし、勝訴したにもかかわらず、相手(被害者)は判決を無視していた、それでいて配信活動は続けており稼ぎを得ていたということであり、このような状況が犯行動機につながったと考えられます。

もし、判決を得たら容易に執行できる制度であれば。

もし、判決を無視したときに、大きなペナルティが科せられる法制度があったら。

同じ事件は起きていなかったかもしれません。

もちろん、お金を返さないとしても「殺していい理由」にはなりません。

ですが、「殺される理由」にはなり得ます。

法律は、人の行動を規律しますが、人の感情を規律するものではないからです。


最近、交通事故の訴訟で認容判決を得たのに、相手からは連絡も支払もないという事件を担当しました。

相手の自宅は借家でしたし、預金口座は見つけたものの残高がないので参りました。

どうにか職場を突き止めて給与差押えの申立てができたので回収のめどは立ちましたが、毎回そんなにうまくはいきません。

もう少し、執行しやすい制度であったり、民事判決を無視した者へのペナルティが重くならないと、泣き寝入りの債権者は減らないでしょう。

いち法律家の目線から、今回の事件は制度設計の不備が最悪の形で表出したもののように見えました。

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