2025.07.01
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弁護士あるある(「証人」はアテにできない)

投稿者:池内優太
砂金

「私の言っていることが正しいと証言してくれる人がいます」


これは、私が個人的に最もアテにしない発言のひとつです。
日々さまざまな相談を受ける中で、勝ち目を聞かれたときに、必ず確認するのは「証拠があるかどうか」「あるとすれば、どのような証拠か」です。
このテーマで話をするときに痛感するのは、弁護士とそうでない人とで、証拠に対する考え方が全く違うということです。
弁護士は(そして、裁判官は)、いわゆる「動かぬ証拠」を重視します。
重視というか、「動かぬ証拠」があればほかの証拠の重要性が一気に下がると言いますか。


たとえば、AさんがBさんに殴られてケガをしたとします。
後でAさんがBさんに賠償を求めても、Bさんは「私はやっていない」と否認した場合を想定してください。
AさんがBさんを訴えようと思ったときに、防犯カメラ映像などでBさんがAさんを殴っている場面が映っていれば、これは「動かぬ証拠」になります。
いくら「BさんはAさんを殴っていない」と証言する人がいても、その証言はあまり意味をなしません。
逆に、映像などの証拠は何もないとします。
その場合、「現場でBさんがAさんを殴ったのを見た」とか、逆に「その時AさんとBさんは口論しかしなかった」という人の証言は結構大事な証拠になります。
ほかに証拠がないからです。
あとは、その証人の話がどれほど信用できるのかという問題になります。
どうでしょう。同じ、「BさんがAさんを殴ったのかどうか」が争いになっている事件で、同じく「BさんがAさんを殴ったのを見た(見ていない)」という証言なのに、この証言の持つ価値が大きく違うのが何となくわかるのではないでしょうか。


さて、そこで冒頭の話です。証言者がいるという話が、なぜアテにならないのか。
理由は3つあります。
第1に、証言者がいようといまいと、動かぬ証拠によって結論が出てしまう事件が多く、その証言者が「動かぬ証拠」の示す内容を変えることは滅多にないからです。

これは先ほどの話ですね。アテにできないというより、あまり重要ではないという表現の方が近いかも知れません。
第2に、証言者がいるという話なのでその証言者から話を聞こうとすると、なんやかや理由を付けて事務所には来てくれないことが多いからです。

気持ち的にはその相談者に味方したいけど、法律事務所に行くのはちょっと・・・となる人が多いんですね。この辺から「弁護士あるある」になります(たぶん)。
そりゃそうです。誰だってそんなめんどくさそうな所になんか行きたくありません。
でも、法律事務所にすら来てくれない人が、裁判所で証言台に立ってくれることは100%ありませんので、この時点で、その証言者は居ないのと同義になります。
第3に、首尾良く話を聞けた場合でも、よく聞くと相談者が言っていることをそのまま証明するような話ではない、みたいなことが往々にしてあるからです。
例をあげましょう。相談者Aが「Bに殴られてケガした」ということを証明するために役立つ証言は「私はBがAを殴るのを見た」というものです。
ところが、証言者だというCさんから話を聞くと「私は、Aがケガをしているのでどうしたのかと聞いたら『Bに殴られた』ということだった。」などと説明されたりします。これでは、結局Aの話が情報源であるという意味で、Aさんの主張そのものと全く変わりません。

せっかく第三者Cの証言が得られると思ったら、話のソースが本人の話そのものだったというオチです。
逆に「私はBから『Aを殴ってやった』という話を聞いた」という証言であれば歓迎です。情報源がAの敵であるBの発言だからです。
問題は、このような話をBがCにしたということは、BとCの関係は良好(たとえば友人関係など)であることが多いということです。
ということは、CさんはAさんのためにBさんに不利な証言をわざわざ裁判所でしてくれるとは限らない(というか、ほぼ期待できない)ことになります。
このように、有益な証言ができる人に限って法廷に立つことを躊躇される傾向にあります。


こうして得られた経験則が、冒頭の話(証言者がいるという申出をアテにしない)につながります。
弁護士の同期や先輩とこの話をすると皆激しく共感するので、このあたりは弁護士あるあるなのだと思います。

それでも、ごく稀に、証言者によって事件の結果が左右されることがあります。

なので、なかなか協力が得られないとは思いつつも、証言者から話を聞くことを怠ってはいけないんですね。

大量の砂の中からごくたまに見つかる砂金を掘り起こすような地道な作業ですが、それゆえに、しっかりやる弁護士とそうでない弁護士に分かれるポイントでもあると思います。

弁護士によって結果が変わるのは、こういう地道な作業が求められる事件なのかもしれません。

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