「隣の建物が老朽化して今にも倒れそうなのに、所有者はすでに亡くなっており、相続人もいない——誰に言えばいいのか、どこに相談すればいいのかわからない」。そのような状況に直面している方は少なくありません。
所有者不明の危険な建物や空き地の問題は、近年、香川を含む全国各地で深刻化しています。こうしたケースで活用できる法的手続きが、「相続財産清算人選任の申立て」です。このコラムでは、相続人のいない財産の清算・処分を求めたい場合の手順を、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
相続人がいない財産はどうなる?「相続財産清算人」とは
所有者が亡くなり、相続人もいない(または全員が相続放棄をした)場合、その財産は「相続財産法人」として扱われ、誰でも自由に管理・処分できる状態にはなりません。そこで法律が用意しているのが、家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任する制度です(民法952条)。
相続財産清算人は、相続財産の調査・保全・債権者への弁済・残余財産の国庫帰属などを行い、相続財産を適正に清算する役割を担います。令和5年(2023年)4月1日施行の民法改正により、従来の「相続財産管理人」から「相続財産清算人」へと名称が変わり、清算手続きの合理化・迅速化が図られました。
隣地の所有者が亡くなり相続人もいない場合——申立人になれるのか?
申立てができるのは「利害関係人」または検察官です(民法952条1項)。隣地の建物が倒壊して損害を受けるおそれがある場合、隣地所有者には相続財産に対する妨害予防請求権があるため、「利害関係人」として申立て資格が認められます。
手続きの流れ——3つのステップで解説
STEP 1|相続財産清算人選任の審判申立て
まず、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。高松市周辺の場合は高松家庭裁判所が申立先となります。
- 申立費用:収入印紙800円+予納郵便切手+官報公告料5,075円
- 申立時期:随時
主な添付書類:
- 被相続人の出生から死亡までの全戸籍・除籍・改製原戸籍謄本
- 被相続人の父母・兄弟姉妹・代襲者(おい・めい)の戸籍謄本等(相続人不存在を証明するため)
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 財産を証する資料(不動産登記事項証明書・固定資産評価証明書・通帳写し等)
- 申立人の利害関係を証する資料
- 相続放棄申述受理証明書(相続放棄者がいる場合)
- 相続関係図
申立てが認められると、裁判所が相続財産清算人(弁護士や司法書士が選任されることが多い)を選任します。申立人が候補者を推薦することもできますが、裁判所の候補者リストから選任される例も増えています。
STEP 2|相続財産清算人による財産管理と報告
選任された相続財産清算人は、直ちに相続財産を引き継いで管理に着手し、家庭裁判所の監督のもとで以下の業務を行います。
- 相続財産の引継ぎ・財産目録の作成
- 官報による「相続債権者・受遺者への請求申出の公告」(民法957条)
- 債権者への弁済・相続財産の清算
- 残余財産を特別縁故者(民法958条の2)または国庫(民法959条)に引き継ぐ
- 管理状況報告書・収支計算書を家庭裁判所に提出
管理報告は、財産の状況に変更が生じるたびに行うのが原則です。裁判所によっては、選任後2か月以内の最初の提出期限を定めている場合もあります。
STEP 3|不動産の処分——「権限外行為許可」の申立て
相続財産清算人の権限は、原則として保存行為・利用行為・改良行為に限られます(民法953条・28条・103条)。建物の取壊しや不動産の売却といった「処分行為」は権限外となるため、家庭裁判所に「権限外行為許可」の審判を申し立てる必要があります。
権限外行為の許可が必要となる主な行為の例は以下のとおりです。
- 不動産の売却・贈与・廃棄
- 建物の取壊し(老朽危険建物の解体)
- 契約の解除・債権の放棄・和解
- 寄附・永代供養料の支払・墓地の購入 など
不動産を売却する場合、法律上は競売が原則ですが、実務では権限外行為許可を受けての任意売却が一般的です。売却価格は適正でなければならず、信頼できる不動産業者の査定や路線価・固定資産評価額等を参考に決定されます。
手続きの全体像と費用の目安
| 手続き | 申立人・行為者 | 申立先 | 主な費用(印紙等) |
|---|---|---|---|
| ①相続財産清算人選任の審判申立て | 利害関係人・検察官 | 管轄家庭裁判所 | 収入印紙800円+郵便切手+官報公告料5,075円 |
| ②財産管理・報告 | 相続財産清算人 | 選任した家庭裁判所 | なし(清算人の報酬は相続財産から支出) |
| ③権限外行為許可の審判申立て(処分・取壊し等) | 相続財産清算人 | 管轄家庭裁判所 | 収入印紙800円+郵便切手 |
なお、相続財産清算人の選任申立てには、相続人不存在を証明するために大量の戸籍書類が必要となります。収集作業は非常に手間がかかるため、弁護士への依頼を検討されることをお勧めします。
まとめ|相続人のいない財産に関するお悩みは、よつば法律事務所にご相談ください
所有者が亡くなり相続人もいない建物・土地を何とかしたいと思っても、自分では手も足も出ない——そのような状況に置かれたとき、「相続財産清算人選任の申立て」という法的手続きによって、問題を解決できる可能性があります。
手続きの申立てから清算人の選任、財産の処分・取壊しに至るまで、複数の法的ステップが必要となります。高松市周辺で「空き家の老朽危険建物に困っている」「相続人のいない財産の処理を急ぎたい」「申立ての手続きを代わりにやってほしい」といったお悩みをお持ちの方は、よつば法律事務所(香川県高松市)にお気軽にご相談ください。皆さまの状況を丁寧にお聞きしたうえで、最善の対応策をご提案いたします。