「父の遺言ですべての遺産を長男に相続させるとされたが、弟や妹への支払義務も課されている。弟や妹から遺留分侵害額請求が来たが、その義務の価値をどう計算すればよいのかわからない……」
このように、遺言に条件付きの義務(条件付債務)や存続期間が不確定な義務が含まれている場合、遺留分の算定基礎となる財産を計算するのが困難になります。こうした場合には、民法1043条2項に基づき、家庭裁判所が選任する鑑定人に評価を委ねるという特別な手続きが用意されています。
このように、遺言に条件付きの義務(条件付債務)や存続期間が不確定な義務が含まれている場合、遺留分の算定基礎となる財産を計算するのが困難になります。こうした場合には、民法1043条2項に基づき、家庭裁判所が選任する鑑定人に評価を委ねるという特別な手続きが用意されています。
何が問題になるのか——2種類の「評価困難な義務」
今回の事例
父の遺言により長男がすべての遺産を相続。ただし遺言には2つの義務が課されていた。
① 存続期間不確定な債務
弟が35歳に達した時以降、死亡するまで毎年20万円を支払う義務(終身年金型)
→ 弟が何歳まで生きるかが不確定。総支払額が計算できない
② 条件付き債務
妹が結婚したときは500万円を支払う義務(停止条件付き)
→ 妹が結婚するかどうか、いつするかが不確定。債務が発生するか不明
遺留分の算定基礎となる財産は「相続財産+一定の贈与-被相続人の債務」で計算しますが、これらの義務は通常の確定した債務ではないため、当事者の判断だけでは価値を算定することが極めて困難です。そこで法律は、このような場合に家庭裁判所が選任する専門の鑑定人に評価を委ねる仕組みを設けています(民法1043条2項)。
民法1043条2項——鑑定人選任の仕組み
民法1043条2項の趣旨
遺留分の算定基礎となる財産に、条件付権利・義務または存続期間が不確定な権利・義務が含まれる場合、その価額は家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に委ねることとされています。条件成就の可能性や存続期間の予測は専門的な判断を要するため、当事者ではなく中立の専門家(鑑定人)が行います。
遺留分の算定基礎となる財産に、条件付権利・義務または存続期間が不確定な権利・義務が含まれる場合、その価額は家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に委ねることとされています。条件成就の可能性や存続期間の予測は専門的な判断を要するため、当事者ではなく中立の専門家(鑑定人)が行います。
鑑定人の評価の性質
- 家庭裁判所は鑑定人の選任だけに関与し、鑑定結果に判断を加えることはない
- 民法は評価の方法について規定していないため、鑑定人の自由裁量に従う
- 同様の鑑定人選任制度は限定承認(民法930条2項)でも用いられている
- 条件付権利が受遺者の資産側にある場合は、遺留分の侵害額請求者が鑑定人の選任を求める
鑑定人選任の申立て手順
-
01申立人を確認する 新法(令和元年7月1日以降の相続)の場合、申立人は遺留分侵害額の請求を受けた者(受遺者)です。遺言で全財産を相続した長男が申立人となります。ただし、条件付権利が受遺者の積極財産側にある場合は、遺留分権利者(請求する側)が申立人となります。
-
02申立書を作成し、家庭裁判所に提出する 相続が開始した地(被相続人の住所地)の家庭裁判所に申立書を提出します。申立費用は収入印紙800円+予納郵便切手。
-
03鑑定人が評価を行う 裁判所が選任した鑑定人が、条件付債務や存続期間不確定な債務の現在価値を算定します。評価方法は鑑定人の裁量によります。
-
04鑑定結果をもとに遺留分の算定基礎を計算し、侵害額を確定する 鑑定によって確定した債務の価額を差し引いた上で遺留分の算定基礎を計算し、弟・妹それぞれへの侵害額を確定します。
申立ての要件と添付書類
鑑定人選任審判申立書の概要(新法・令和元年7月1日以降)
申立人遺留分侵害額の請求を受けた者(民法1046条)
申立先相続が開始した地の家庭裁判所(家事手続216条1項1号)
申立費用収入印紙800円+予納郵便切手
根拠条文民法1043条2項・家事事件手続法39条・別表第1第109号
添付書類申立人の戸籍謄本・住民票、遺言者の戸籍(除籍)謄本、遺言書の写し、遺留分侵害額請求書
申立書「申立ての理由」に記載すべき内容
①相続人の構成と遺言の内容、②受遺者に課された義務の具体的内容(弟への終身年金・妹への結婚時一時金)、③その義務が「履行期限のない債務」または「条件付債務」であること、④遺留分算定のために債務の価額評価が必要であること——この流れで具体的に記載します。
①相続人の構成と遺言の内容、②受遺者に課された義務の具体的内容(弟への終身年金・妹への結婚時一時金)、③その義務が「履行期限のない債務」または「条件付債務」であること、④遺留分算定のために債務の価額評価が必要であること——この流れで具体的に記載します。
遺留分算定における2つの重要な注意点
①持戻免除の意思表示は遺留分算定には効かない
遺産分割においては、被相続人が持戻免除の意思表示をしていれば特別受益を算入しませんが(民法903条3項)、遺留分の侵害額の請求においては、持戻免除の意思表示がなされていても遺留分算定の基礎となる財産には算入されます(最決平24・1・26)。また、60年前の贈与であっても遺留分算定の基礎に含まれるとした裁判例もあり(東京地判平24・9・14)、算定基礎の範囲は遺産分割より広いことに注意が必要です。
②相続人への贈与は10年以内のもの(特別受益該当分)が対象
相続人への贈与と第三者への贈与で扱いが異なる
遺留分算定の基礎となる贈与の範囲は次のとおりです。第三者への贈与は相続開始前1年以内のもの(双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合はそれ以前のものも含む)が対象です。一方、相続人への贈与は相続開始前10年以内のもので民法903条1項の要件(特別受益)に該当するものが対象となります(民法1044条3項)。
遺留分算定の基礎となる贈与の範囲は次のとおりです。第三者への贈与は相続開始前1年以内のもの(双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合はそれ以前のものも含む)が対象です。一方、相続人への贈与は相続開始前10年以内のもので民法903条1項の要件(特別受益)に該当するものが対象となります(民法1044条3項)。
「通常の遺留分算定」と「鑑定人関与が必要な場合」の比較
| 比較項目 | 通常の遺留分算定 | 鑑定人選任が必要な場合 |
|---|---|---|
| 対象となる債務 | 確定した金額・履行期限の明確な債務 | 条件付債務・存続期間が不確定な債務(終身年金、条件付一時金など)評価困難 |
| 評価の方法 | 当事者間で合意・交渉して算定 | 家庭裁判所が選任した鑑定人が自由裁量で評価民法1043条2項 |
| 裁判所の関与 | 調停・訴訟での交渉 | 鑑定人の選任のみ。鑑定結果への判断は加えない中立的評価 |
| 申立人 | (該当なし) | 原則として遺留分侵害額の請求を受けた者(受遺者) |
| 費用・期間 | 調停・訴訟の費用のみ | 申立費用800円+鑑定費用が別途発生。鑑定に時間がかかる場合も追加コスト |
| 弁護士関与の効果 | 算定の正確性確保・交渉対応 | 申立書作成・鑑定人との調整・鑑定結果への対応・遺留分全体の計算複雑で重要 |
遺留分をめぐる問題は、早期に弁護士へ
条件付き義務を含む複雑な遺留分案件は、計算誤りが後の紛争拡大につながります。また遺留分侵害額請求権には「知った時から1年」という時効があります。香川の皆様も、遺留分に関わる問題が生じたらできるだけ早くご相談ください。
条件付き義務を含む複雑な遺留分案件は、計算誤りが後の紛争拡大につながります。また遺留分侵害額請求権には「知った時から1年」という時効があります。香川の皆様も、遺留分に関わる問題が生じたらできるだけ早くご相談ください。
相続の全体像については、こちらのまとめページをご覧ください。
→
遺産分割・遺言・相続放棄など、相続全般の解説をまとめています
「遺留分の計算が複雑でわからない」——専門家にお任せください
条件付き義務の評価から鑑定人選任の申立て、侵害額の確定まで、よつば法律事務所が一貫してサポートします。高松市周辺の皆様の遺留分問題、まずはお電話でご相談ください。
※ 本コラムは一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。また、掲載内容は本コラム作成時点の情報に基づくものであり、その後の法改正等により内容が変わる場合があります。